高原 洋一

ストリートアートマケット


高原top

経歴

Document


かつて藺草地帯であった私の住んでいる村が、区画整理事業により痕跡をとどめないほど都市化される以前、二十年ぱかり遠い日の出来事になるが、 散歩の途中偶然目にした一つの光景が私の内部に不思議な感情を呼び起こした。それまでその場所は何度も通過し、何度見ても気にならなかったそのよ うな一つの地点でその日私は立ち止まってしまってしまった。両側に真菰の生えた小川の水面からなんの変哲もない五センチ角ほどの杭というか棒のよ うなものが50センチくらい立ちあがっているものであった。測量のためのものか、舟を繁ぐためのものか、子供のいたずらか、水面にたったその物体の 周囲を直径八ミリくらいの卵形の浮草が小さな絨毯のように取り巻いていた。

日差しの強い日であった。棒の陰が日時計のように浮草に伸びその先端の陰は 浮草の絨毯からはみ出し消えるほど薄くなっていた。そして陰の消えかかったその部分からまっすぐ水面に鏡像のように棒の影が映っていた。空間に 伸びた実像の物体とその陰と虚像の影が一本の直線を描いているのだった。たまたま立ち止まった私の視点が偶然にもそのように見える位置にあったのか、 自然が創りあげた一直線の幾何学的図形を見い出して私が立ち止まったのか今でも謎であるが。

その後、川の流れは激しくなり浮草は流れ去り一本の棒は たんなる一本の棒になってしまった。そのようなことは忘れてしまえぱよかったのかもしれないが、何か大事なことかも知れないと思った。それ以来奇妙 な観念が私の中に宿ってしまった。ひとつのささやかな現象が流れる時間の中で異形の姿を現すこともあるのだと知った。その後、その小さな事件は絶えず 私に問題を投げかけ、写真を用いて作品化する私の造形の原型となった。